ひと / 小野寺史宜
50代で21歳の感覚を書けるのは、単純にすごいことだなと思う。
ただ、人と人との縁を大切にしようという気持ちに年齢は関係ないない。作者の小野寺さんは、過去に何かあり、その過程で縁を大切にしようと思い至ったのかもしれない。でもそのテーマを現代の20代を通して書けるのは、やっぱりすごい。
主人公・柏木聖輔が、さほど長くはない人生で経験した両親の死という災難。大災難といっていい。これほどのことが身に起こる人というのは限られているだろう。とりわけ、そのなかで苦しみながらも自分を保って生きていける人も、そんなに多くはないかもしれない。
読んでいて、聖輔がなんとかやっていけそうだと思えるのは、彼の元から持っている性質に加え、彼が良い人たちと巡り会えたことによるだろう。人は、人を助ける。助けるし、だめにもしていく。
この物語はこれはフィクションだけど、現実でも人は人を助ける。逆も然り。
でも助けてくれる人と巡り会えるのは、その人の性質によるところもある。なんとかがんばって、全うに生きていこうとしている人に、人は手を差しのべる。単純な構造。だけどそれがいちばん難しい。
つらいときにつらいと言える人は案外少ない。言わなくても、「助けてほしい」という空気を纏って生きていくのも、けっこう難しい。
「こいつは大丈夫だな」と思われるのは、ある意味では強く見られていることでもあるけれど、「こいつには関わらなくてもいいか」と思われることと少し似ている。
人が、人に、特に大人に、「何かしてあげたい」と思わせるには、やっぱり懸命に生きていないといけない。ひとたび、生きよう、と思えたとしても、ささいなきっかけで落ちていくことだってある。
生きるとは大変なことなのだ。
生きるにはお金がいる。
お金を稼ぐためには仕事をしなくてはいけない。
その仕事は、環境によってしやすくもしにくくもなる。
生きるにはお金だけでなく、生きがいもいる。
それが仕事になりうることもあるし、趣味だったりするし、または恋愛など。
お金がなくたって、恋はしていい。それはそう。
いい人もいるし、悪い人もいる。見極めるのは自分。見極められるようになるには、日々を誠実に暮らすほかない。
生きるのはとっても大変だ。
でも、生きるのは楽しい。楽しいと思える自分でいよう。
これからどんなことが起こるのだとしても。
そう思った。
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