2022.07.31 09:05くまちゃん / 角田光代たまたまタイミングが合わなかっただけ。なのかもしれない。その時のその人にとって、たったひとりの彼や彼女だけが、どうにもならない存在だった。出会う時期がほんの少し後だったら、ちがう関係になれていたかもしれない。でも、「その時」「その場所で」「そういう出会い方」をしたがために、Aさん...
2022.07.22 20:03よるのふくらみ / 窪美澄カップルの性事情。いろいろある。それは、付き合いの長さや純粋な加齢によって、時間とともに形を変えていく。消えてなくなることもある。セックスが好きな人もいれば、嫌いな人もいる。なければ生きていけない人もいれば、なくても生きていける人もいる。四六時中しまくっている人もいれば、したいの...
2022.07.07 16:42ひと / 小野寺史宜50代で21歳の感覚を書けるのは、単純にすごいことだなと思う。ただ、人と人との縁を大切にしようという気持ちに年齢は関係ないない。作者の小野寺さんは、過去に何かあり、その過程で縁を大切にしようと思い至ったのかもしれない。でもそのテーマを現代の20代を通して書けるのは、やっぱりすごい...
2022.06.30 13:09鹿男あをによし / 万城目学少なくないページ数のわりにサクサク読める内容で、深い考察は必要としない物語だった。“悪い”人が出てこない純なものを読んだ気がする。中身が薄いという意味ではなく、読みごたえはじゅうぶんにある。奈良の風情も伝わってくる。鹿がしゃべりだすという設定も滑稽だ。主人公の独白はつねにどこか皮...
2022.06.25 19:05コンビニ人間 / 村田沙耶香「私」の人生は、「私の人生」ではないのだな、と思う。では誰のものかといえば、親だったり、きょうだいだったり、友達、恋人や配偶者、わが子、同僚に上司、あるいは無関係の人物、つまり社会のものである。痛いほどそう感じる。所狭しと人がひしめく社会のなかで生きるということは、「平均」を保た...
2022.06.23 15:00少女七竈と七人の可愛そうな大人 / 桜庭一樹人の容姿は呪いだ。醜いことが呪いなのであれば、美しすぎることもまた呪い。そしてまた、平凡すぎる顔も呪いである。その顔をもつ本人がそう思ってしまったのであれば、四六時中、心を支配する。平凡であることから逃れたくて七人の男とある期間狂ったように寝た母と、そのせいで望まぬ美しい容姿に生...
2022.06.17 09:23博士の愛した数式 / 小川洋子とても、とてもよかった。(映画は未見)解説で数学者・藤原正彦さんが書かれている表現を拝借すると、作者の小川洋子さんはこの作品の中で、数学と文学をまさに結婚させている。ちなみに解説のほうも素晴らしかった。数学を専門にする方なのに文章も達者なの?と嫉妬してしまうくらい。本篇読後にこち...
2022.05.02 14:15娼年 / 石田衣良欲望のかたちは人の数だけあるんだと思う。ことに性欲はそのはずで、なぜならひとりひとり体の構造がちがうからだ。育ってきた境遇や触れてきたものによって、さらに味付けが進むこともあるだろう。性欲は性別も差別しない。男だから旺盛だとか、女は好きな男としか寝ないだとか、そういうのはたぶん、...
2022.04.25 14:23リバース / 湊かなえまず、ミステリとしてかなり練られていて、事故のあった当日の顛末から、その後に起こる事件の運び方、主人公がその真相にたどり着こうとするまでの流れ、などなどがとても丁寧に描写されている物語だった。読後、「あぁ……」という重いため息とともに、全身の力が抜けた。ミステリ作家としての湊かな...
2022.03.17 14:14センセイの鞄 / 川上弘美この『センセイの鞄』という本は、とても小さな話である。ゆえにいとおしい。この人といると、なんかいい。という人が見つかることは幸せなことだ。そういうことは日々世界のなかで無数に起こっていて、人はそれをだれかに言ったり言わなかったりしながら、大切にする。その他大勢にとってはどうでもい...
2022.03.08 15:59向日葵の咲かない夏 / 道尾秀介「罪」と「赦し」。子供はときに残酷だ――ということをよく言うが、その残酷さを作りあげるのは、多くの場合は親なのではないかと思う。すべての出発は、子供の些細ないたずら心。それが「罪」になる。それは厳密には「罪」ではないかもしれず、捉えようによっては「罪」たりえるかもしれない、という...
2022.02.28 18:42神様ゲーム / 麻耶雄嵩なぜ人は、自ら進んで嫌な気持ちになりにいくんだろう。人は、というか、僕は。いややっぱり、人は。この作品は前評判で、読んだらあまりいい気持ちにはならないと知っていた。でも手に取った。そして読んだら案の定嫌な気持ちになって、もやもやした塊が体の中に残っている。これは長いこと残るんじゃ...