博士の愛した数式 / 小川洋子

とても、とてもよかった。
(映画は未見)

解説で数学者・藤原正彦さんが書かれている表現を拝借すると、作者の小川洋子さんはこの作品の中で、数学と文学をまさに結婚させている。
ちなみに解説のほうも素晴らしかった。数学を専門にする方なのに文章も達者なの?と嫉妬してしまうくらい。本篇読後にこちらの解説に触れられるのは贅沢。氏は、執筆にあたり小川先生が取材された方なので、本作への功労者でもあるわけだし。


小川先生の筆致が抜群に優しかった。特別な言葉を使っているわけではないのに、いや、そういう表現だからこそ、シンプルに気持ちや情景が頭に滑りこんできた。
人と数字に対する愛があふれていた。

「私」が数字を見るとき、博士を通して見るのとそれ以前とではまったく見方が変わってゆき、その表現にこそ詩がある。何度も涙をこらえた。
なかでも、博士がオイラーの公式を持ち出してきたあと、「私」が自分なりにその式を解釈している一節は、誇張なく、これまで読んだどんな文章より美しかったし、いとおしかった。

この作品の全篇に、人に、小さな子供に、数字に、痛ましい過去に、スポーツに、生活に、あらゆるものに対するいとおしさが漂っている。
きっとまた読み返す。これを読めば、日々がんばろうと思えるはず。

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