レディーファーストそれぞれ
ごくプライベートな出来事。
さっき妻と少しドライブして帰ってきた。そこまではよかったが、家のドアを開けたときに小さな虫が入ってしまった。僕がドアを大きめに開けたからだ。
妻は家の中に虫が入るのを嫌う。僕も好きではないが、それ以上に嫌っている。さっき虫が入ったとき、「ドア大きく開けるから…」と言われた。ああもううんざり、という雰囲気だった。前にも言ったのにさ、てな具合に。反射的に、なんじゃコラァ!そりゃ確かに虫が入るのは好ましくないけれども、そんな感じになるほど嫌ですか、そいつぁ~いくらなんでも過敏ですよあーた……と言いたくなったが、ぐっとこらえて、冷静に、建設的に話し合った。そして解決した。よし偉い、二人とも偉いぞ。ただその点についてはどうでもいい。
虫が入ったときのことをちょっと振り返ってみる。
僕は、妻を先に家に入れるべくドアを開けた。レディーファースト。このとき妻は身一つではなく、私物のノートパソコンの入った手提げとパンの袋を左右の手に持っていた。このぶん少し幅が増している。だから僕は大きめにドアを開けたのだ。
ところで我が家では猫を飼っているが、飛び出し防止のため玄関に簡易的な柵を立てている。これを出かけるときに立て、帰ったときにどけるという寸法。で、先に家に入るほうが柵をどける係になる。さて、妻は両手がふさがっている。そのため柵をどけるのに手こずる。そのあいだ僕はドアを大きく開け放って待った。やがて妻は中に入り、僕も続いたが、決して広い玄関ではないし、僕はリュックを背負っているぶん体積が増しているので、まだ少しドアを開けておかなくてはいけなかった。この一連のどこかで、奴は侵入したらしい。
どこをしくじったか。ドアを大きく開けたこと?リュックを背負っていたこと?妻を先に入れたこと?妻の私物を持たなかったこと?玄関に柵を立てていること?え、もしかして猫を飼っていること…ってのは冗談として。理由はたぶんいろいろある。そして、もしもそれらすべてに気を配れたとしても、虫は入るときは入る。だからなるべく慎重になることと、虫が入ってしまっても気にしないこと、その両方を大事にすることにした。
話し合う中で気づいたことがあった。二人で帰宅するとき、僕は毎度毎度、ドアを開け、妻を先に家に入れていたのだ。ほとんど無意識に。これだけでなく日常的にも、重い荷物は持つとか、並んで歩くときは車道側に行くとか、飲食店などでは座り心地のいい椅子のほうを譲るとか、世間一般において女性から喜ばれるとされている…いや、もはやすべきとされている行為を、僕は自然にしている。まさに過去、「すると喜ばれるよ」「やれないとかっこ悪いよ」みたいなことを実際に言われてきてするようになったのだ。だから身についた。今ではなにも考えないでもできる。だけどよくよく考えてみると、必ずしなきゃいけないことでもないんじゃ…と思う。
だってさー、さっき僕は妻を先に家に入れたけど、明らかにそのことが虫侵入のひとつの要因になって、結果的に妻は嫌な気持ちになっているわけだよ。そんなの本末転倒だ。皮肉だ。喜ばせるためにしたことが悲しみを生むなんてさ。つまりレディーファースト的な行為ってのは〝一般的には〟女性に喜ばれるものだけど、常にベストではないってこと。そんなものはあくまでも平均値でしかない。
でもそんなの考えてみりゃ当たり前のことだ。ものごとは臨機応変に考えにゃならん。たとえば今回の虫侵入は、回り回ってレディーファーストが仇となっている。また世間には、そもそもレディーファーストされること自体を嫌う女性だっているかもしれない。レディーだからファーストする!じゃなくて、その人のためになることは何か、これやったらこの後どうなるだろう、って考えることのほうが重要なんじゃね?世間の当たり前に従うだけってのは思考停止なんじゃね?
男も女も常に想像しろー!ケア!気づかい!そしてみんなハッピーであれ!
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