2018年の演劇活動について

 大晦日なので、今年の演劇活動の個人的な振り返りを。

 (このブログでは基本的に演劇のことに触れないつもりだったのですが、1年の締めくくりだし、みなさまにお礼の意味も込めて)



ホチキス『妻らない極道たち』

 2014年にやったものの再演。追加要素があったので、リメイクと言ったほうがいいかもしれない。初演も再演もゲスト出演してくれた須貝英は、今回のこれを「フルサイズ版」と表現していた。なるほど。

 僕は初演と同じく、越川大吉という結婚詐欺師を演じた。初演はまだかわいげがある男だったが、再演ではクズ度が増したように思える。それは脚本の変化によるものか、僕が年を重ねて汚れてしまったせいか。どちらにせよ、僕はクズを演じるのが好きだ。特に詐欺師のような二面性のあるキャラクターを表現するのは楽しいし、そこに人間らしさがあると思う。

 劇中で越川は、本作のヒロインである聖子をカモに金をむしり取る。これは初演にもある要素なのだが、詐欺が発覚して以降2人が顔を合わせるシーンは描かれなかった。再演でそれが追加され、聖子に対して悪態をつく台詞があった。ここが主に楽しかったシーンだ。現実の僕はマジで女の人に頭が上がらないので、舞台の上で堂々とこういうことができるのは嬉しいし気持ちがいい。べつに女性に対して鬱憤がたまっているわけではないけど。でもこういう暴力性というか加虐性みたいなどろどろした感情が自分の中にもあるとはっきりわかったのが、個人的に大発見だった。クズ役はたくさんやりたいと思った。お客さんから嫌われるような人間だって、積極的に演じていきたい。オファーお待ちしています。



Z℃(ズィド)

 即興で演劇を創るチーム。『妻らない~』でゲスト出演してくれた末原拓馬(おぼんろ)が声をかけてくれて出演した。彼のほかに構成員は、三上俊、塩崎こうせい、コロ。

 彼らはもともと優れた俳優だが、それに加え、パフォーマンス日に向けて日々即興の訓練をしていて、僕が顔を出した時にはかなりのレベルに到達していた。正直、こんな誘いに乗るんじゃなかったと後悔した。

 二夜連続の公演だったのだが、まず4人だけが一夜目に客前で即興をし、それを元にした物語を構築、そして二夜目にブラッシュアップして公開、というものだった。僕(を含めたゲスト)が出演したのは二夜目のみで、つまり4人は役がほぼ出来上がっているが、僕のほうは物語の趣旨に添いながら即興でなにかをやらなければならない立ち位置だった。これを知ったとき、見た目にも分かりやすく僕は緊張していたと思うが、心の中はそれを通り越して戦慄していた。

 本番のことは夢中だったので細かくは覚えていないが、けっこう楽しかった。お客さんが温かかったからだと思う。そしてそれまでに会場をしっかり釘付けにしていた4人の功績があればこそ。戦いながらもそれを楽しんでいる4人はとにかくかっこいい。今の演劇界にこういう人たちがいることが嬉しい。

 後日、生配信のパフォーマンスをしたときも参加させてもらった。ここでは自分の即興力の乏しさを痛感したので、またぜひリベンジしたい。



もぴプロジェクト×ピンカルンカ『星の王子さま』

 Z℃で裏方をやっていたのがもぴプロジェクトの下平慶祐で、その打ち上げで電撃オファーをいただいて快諾したのがこの舞台。かの有名なサン=テグジュペリの名作を下敷きとした作品だが、これを機に初めて原作に触れて、その色あせない魅力に大いに感銘を受けた。

 ただ、作中で語られる「大切なことは目には見えない」という普遍的なメッセージを表現するのはかなり難しかった。僕が演じたキツネが発するのがまさにこの台詞で、これを芯をとらえて口にできるほど僕はまだ人間的に成熟していないので、かなり苦労した。また、こういうのは受け取る人によって意味の変わってくるものだと思う。個人的にはそういう投げっぱなしなのは好きではないので、確実に伝えるべきことを伝えたいと思った。よかったのが、相手役である王子さまを演じた秋沢健太朗が、ちゃんと受け取ってくれるしちゃんと発信してくれる、おそろしく素直な俳優だったことだ。彼の真摯なお芝居に僕も感化されるところが多く、とても救われた。彼とのやりとりで、表現したいことはおおかた提示できたと思う。観てくださったみなさんはどういう感じ方をしたのだろうか。

 この公演で、下平慶祐と秋沢健太朗の2人に出会えたことがとても嬉しかった。

 ほかに、王様も演じた。演じたというよりはほとんどふざけていただけだ。コメディシーンなので、ふだんホチキスでやっているようなことが生かせた形で、つまりホチキス万歳。でも一番は、楽しいシーンでは声を出して笑おうと思って観てくださっているお客さんによるものが大きい。感謝!



ホチキス『あちゃらか2』

 去年の『あちゃらか』の続編。ありがたいことに一作目がご好評いただけたことで実現できた、劇団初の続きもの。僕も思い入れのある作品なので、同じ邪紅という役でその後を生きられたことがとても嬉しかった。

 今作で描かれている邪紅は父親である。劇団代表・米山和仁に子供が生まれたため、その苦労や苦悩が今回の邪紅像に色濃く反映されている。僕には子供がいないので実感は持てないが、おそらく男というものは我が子に対して、愛情よりも、怖いという感情が先に立つのだろうなと想像できる。子育てにおいて強いのが実際におなかを痛めた女のほうだというのは、たぶん、いつの時代も変わらない。ダメダメだけどかわいらしかった前作の邪紅から、ただのダメな男になり果ててしまった今回の邪紅。正史では沙羅に捨てられてしまう未来が待っていたようだが、その未来からやってきた息子・寿限無の霊のはたらきもあって、新たな未来が作られ、なんとか一家離散を免れたのにはほっとした。僕はきっと誰よりも、沙羅と邪紅のカップルが好きなのだ。

 男は、いくらダメでも、かっこつけなきゃいけないときがある。そんなことを邪紅を通して学んだ。ありがとう邪紅。また、会えることを祈って。



ホチキスボイルド『ケルベロス』

 「ハードボイルドなホチキス」を掲げて打たれた公演。ぶっ飛んだ設定やゴリゴリのファンタジーが多いホチキスには珍しく、一般的な会社組織を描いた。スーツを着て、スマホを操り、会議やプレゼンを繰り広げた。

 この公演に限ったことではないが、数年前から若い俳優がどんどん現場に入ってきている。そうなると、座組内での自分の年齢も上から数えたほうが早くなってくる。今作もそうで、演劇人生で初めて、演じる役に「部長」という肩書きを与えられた。もしかしたら世のビジネスマンもそうかもしれないが、僕は役職を与えられることで自分の年齢とキャリアを自覚した。だから、なるべく部長らしくいられるよう心がけた。それは先輩風を吹かせて威張るということではなく、めんどうなことは全部先輩に譲る、下っ端根性まるだしな若者を卒業する、というようなことだ。これは自分にとっては悪くない変化で、舞台上ではいい意味で力を抜いていられた。

 演じた野田という男は、おそらくあまり観たことのない齋藤陽介だったと思う。終演後にお客さんから、何度か「かっこよかった」とのお言葉をいただけたことが、ほんとうに、ほんとうに嬉しかった。かっこいい男も演じられる、面白いおじさんになっていきたいと、このころから思うようになった。劇団的にも新たな面を提示できたが、個人的にもとても意義のある公演だった。



子育亭育児の落語独演会『紅の会』

 『あちゃらか2』で子育亭育児として高座デビューを果たした邪紅。作品と役を愛していただけていることに対して、なにかお礼ができないかと思ってこの独演会をやることに決めた。プロの噺家でもないのに無謀かなとは思ったが、過去に何度か落語会で高座に上がらせてもらっているので、この経験を生かそうと思った。

 子育亭育児ということなので、家族をテーマにした噺をやることにした。まずは『寿限無』。これはぜひやりたかった。息子の名前だし、『あちゃらか2』の終盤にサイレントでやっていたのがこれという設定だったので。続いて『初天神』。父と子のやりとりがかわいらしいし、邪紅と寿限無として見えたらいいなとの思いもあった。

 そして『芝浜』。夫婦の愛を描いた有名な人情噺だ。これは実は過去に一度やったことがあったのだが、若かったし、独身だったし、とにかくほんとうに未熟だったので、ただの暗い噺になってしまった。だからいずれまたやりたいと思っていたのだ。今回やれてよかった。もちろんまだまだ未熟であることに変わりないが、結婚したことや年齢を重ねたことによって、やっているときの感覚が以前とまったくちがった。どの噺もそうだろうが、『芝浜』はその時その時によって空気がまるっきり変わる噺だと思う。なので、またやりたい。

 独演会もまたぜひ、と考えている。あるいは誰かと組んでの落語会とか。そのときはやはり、お客さんへの恩返しとして。



 以上。

 観てくださったみなさま、ほんとうにありがとうございました!誇張でもなんでもなく、お客さんが観てくださることで、我々俳優は舞台に立てます。2019年もどうぞよろしく。今年よりもかっこよくて面白いおじさんに近づけますように。

本とか

主に読書感想文、たまに思ったこと。

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