新年なのでコートを新調した。真っ黒なコートだ。

 新年なので、というのは口実で、実際はかねてより欲していた。ただ、コートはとにかく高い。安くてもそれなりの値段がする。しかし、ふらっと立ちよったデパートで贔屓のブランドをのぞいてみると、新春大特価で大幅な値下げをやっていた。ちょうどほしかった真っ黒いのは、なんと50%引き。即決。だからまあ、新年なのでコートを新調した、というのはまちがってはいない。

 ところでなぜ真っ黒なコートがほしかったかというと、事務所の同僚で4つ年上の役者が、最近黒を着こなしているのに感化されたからだ。彼は背丈がそんなにあるほうではないのだが、骨ばったシャープな顔にワンレンで、なかなかおしゃれな奴だ。ほんとうにスタイリッシュに黒を着ている。その黒が、37歳に相応で、とてもいい。役者というのは社会であまり揉まれていないせいか、実年齢より若く――幼くと言ってもいい――見られることが多い。僕は近年それが気がかりだった。その点で黒は、非常に有効な色だと思った。
 聞くと、彼も人に影響されて黒いものを身にまとうようになったらしい。その人というのが事務所の女性マネージャーで、われわれがとても頼りにしているMさん。なるほどそういえば彼女はいつも全身黒だ。それによってその貫禄と上品さに拍車をかけている。『魔女の宅急便』でオソノさんも言っていた、黒は女を美しく見せるのよ、と。
 で、Mさんにも贔屓のブランドがあるという。ヨウジヤマモト。聞いたことはある。ホームページで調べてみると……いいものは、いいお値段。特にコート。こういうものを買えるのが大人なのだろうなと思いながら、ヨウジヤマモトヨウジヤマモト…と頭に入れてホームページを閉じた。そのころから僕は、身の丈に合った店で、ちまちまと黒いものをそろえ始めた。ズボン、靴、ニット帽、靴下、マスクに至るまで。なんと自分の中に先見の明があったのか、トレーナーやネックウォーマー、リュックなどはすでに黒をそろえてあった。残るはコート…と思っていた矢先、今日の買い物。福が来た。

 かくして僕の体を覆うものは真っ黒になった。帰ってからすべて身にまとってみると、ほんとうに黒かった。目下の夢は、我が家の黒猫・かんなを肩に乗せて、「黒猫に黒服で真っ黒くろだわ」と言うことである。

本とか

主に読書感想文、たまに思ったこと。

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