未満の人

 先日、家の近くの商店街で、高校・大学時代の友人にバッタリ会った。彼はまったく別の路線沿いに住んでいるのだが、その日はわざわざパンを買いにここまで来ていたらしい。なるほど考えてみれば日曜だ。そのパン屋はかなり有名な店らしく、彼も30分ほど並んでやっと目的のものを買えたと言っていた。地元民の僕は知らなかったが、あとで妻に話したらやはり有名な店のようだった。
 彼が遠くの街まで足を伸ばすほどのパン好きだとは知らなかった。が、考えてみれば、たしかにグルメではあったなと思い出した。彼に連れられて、以前はよく一緒においしい店巡りをしたものだ。そんなことすら忘れるほど、しばらく会っていなかった。自分の出る芝居の案内は送って、観に来てもらってはいたが、もはやそれだけの関係だった。この日はいつぶりだったろうか。もう長いこと会っていない感じがした。

 友人と言ったが、たまたま高校と大学が同じなだけで、実は彼と僕の間に共通点はほとんどない。ひとつだけ、『木更津キャッツアイ』というドラマが好きで、大いに盛り上がった時期がある。ロケ地である木更津に二人で行ったのが僕ら最大のハイライトかもしれない。それも10年ほど前の話だ。高校が同じで、クラスが同じになったことすらあれど、付き合いのあった友達はそれぞれ別で、たまたま同じ大学に入ったことによってなんとなく遊ぶようになったようなものだし、彼は司法関係、僕は演劇と、生きる世界が違うため、一緒にいても話がはずまないことも多い。これは友人と呼べるのだろうか。
 このあと何かあるの、と聞くと何もないと言うので、じゃあ茶でも、と誘ったら、いいよ、と答えが返ってきた。正直に言うと、このとき僕はほとんど社交辞令で誘った。何か予定があってほしいとすら思った。あるいは、ごめんこのあと用事が、と適当な嘘をでっち上げて別れることもできた。
 ことわっておくと、彼のことが嫌いなわけではない。思うように盛り上がらないのが苦痛なのだ。結局そのあとカフェで40分ほど過ごしたのだが、お互いの近況を語り合っただけだった。あたりさわりのない40分だった。つまらなくはないが、面白くもなかった。
 店を出て、駅まで送った。じゃあまた、と言うので、うんまた、と答えて別れた。はたしてまたの機会はあるのだろうか。不思議な関係だと思った。

本とか

主に読書感想文、たまに思ったこと。

0コメント

  • 1000 / 1000