育つ魂
では講義を始めます。今日は霊園について。
まず、墓地とはどう違うの?という疑問があると思います。お答えしましょう。墓地と霊園の違いは、大まかに言うと管理者にあります。墓地は寺院が、霊園は公益法人や宗教法人、あるいは都道府県や市町村などの自治体が運営しています。
あとは私の専門外なので、割愛します。
今回みなさんにお伝えしたいのは、【霊園】とは何か、ということです。
先述の通り法人や自治体の管理下にあるものが【霊園】ですが、ではなぜ《霊》の《園》なのか。これを知っていただきたいのです。
墓地は、墓のある地。至極シンプルな表現です。こんな風に寺院にネーミングを先取りされてしまったために、法人や自治体は困ったことでしょう。しかしそれで行き着いた先が【霊園】なのは、かなりの飛躍があるように思います。
なぜ墓という字を使わなかったのでしょう。墓地の中の区画を表す言葉として「墓所」というものがあります。細かい意味は知らなくとも、とにかく墓に関する何かだということが分かりますね。これにならって「墓処」や「墓部」や「墓連」などの表現でもよかったはずなのに、【霊園】とは。
「墓園」ですらありません。
園――。
そう、《園》とは何か、ということになります。
辞書によると、「古代の菜園地。宅地に付属した畠地で野菜のほかに桑、漆を植えることが定められていたが、免租地であった」とあります。つまり《園》とは本来、植物を栽培するための土地のことなのです。
つまり、【霊園】とは《霊》の《畑》ということになります。霊の種を植え、水をやり育て、収穫する場所、それが【霊園】です。
違いますね。
こういう意味になると分かっていたのであれば、昔の人はわざわざそんな名前は付けません。ではどういうことか。
答えは簡単。【霊園】ができる前から【霊園】はあったのです。
墓地は寺院に付属したものですから、敷地内に場所を設ければ済みます。しかし他の人が「お墓を作りたいなぁ」と思っても場所がありません。探しました。
やがて見つけたのです、霊が多く集まる場所を。それが【霊園】――《霊》の《畑》です。と言っても、霊を栽培している畑ではなく、霊が栽培している畑という意味です。お分かりですね?
ちなみにここで言う《霊》とは、死後の人間の残留思念ではなく、土着の、いわゆる妖怪に近いものだとお考えください。
栽培していたものはおそらく、人の魂でしょう。生きている人間の魂を吸い上げ食す、これが本来の《霊》の生態です。しかしその中で、もっと美味い食べ方があるのではないかと考えた者がいました。彼らは、人間が植物を育てるのをまねて、吸い上げた魂を一度土に埋め、水や肥料をやって育て、大きく成長させます。それを栽培し、きちんとあく抜きをし、よく火を通すなどしてから食す。すると、いわゆる「魂の生食」に比べて格段に味が良くなったのではないでしょうか。さらに栽培した魂からは種が取れるので、わざわざ人を襲う手間も省けます。この方法は瞬く間に各地へと広がりました。これが、【霊園】の始まりです。と言っても彼らは単に《畑》とだけ呼んでいたのですが。
ここに目を付けたのが、寺院に属していないが墓場は作りたかった人間達です。彼らの調べで分かったのは、魂は骨に宿るものであるということでした。骨も人魂も白を基調としていますから、考えてみれば自然なことですね。さらに、死後数日が経過した骨の方が、中で魂が熟成されるということも分かりました。
ならば、と。あなた方の畑に骨を埋めさせてはくれまいかと。我々はさらに火葬によってきれいな状態の骨を提供するからと。定期的に納めるとは約束できないが、我々の持つ資源――魂は潤沢であるのだから。代わりに、この敷地を人間の墓として管理・運営させてほしいと。
言わずもがな、これはwin-winでした。ただし《霊》側は、ここはあくまでも自分達の場所だということを忘れないでほしいと言いました。そこで人間はこの場所に、彼らへの敬意を込めて【霊園】と名付けたのです。
夜中に霊園の前を歩いていると人魂が浮いているのを見ることがありますが、あれは怪奇現象などではなく、《霊》が育てた作物を収穫している最中なのかもしれません。みなさんもその時は怖がらず、「精が出ますね」と声をかけてみてはいかがでしょう。今日の講義はここまで。
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