顔福


 お前は顔がいいよな。 


 ああごめん急に、ふと思ったから。

 顔がいいから、俺はお前といるのかもしれないな。変な意味じゃなくてね、ちょっと聞いてよ、俺はお前と友達でいられてつくづくありがたいって思うよ。別にお前に寄ってくる女の恩恵は俺はこれっぽっちも受けてないけどさ、それはどうでもよくて、お前の顔が近くで見られるのがいいって意味ね。

  なんていうのかなあ。そう、顔がいいんだよ。単純に。お前の顔いいよ。それ以外に言い様がないよ。客観的に見たら男前っていうことになるんだろうけど、そういうことではないんだよな。俺はそういうの分からないしさ。つまりさ、俺の主観で見て、その顔のつくりがなんか……すごくいいんだよ。

 見てて安心するっていうかね。違うか、気持ちいいって言った方がいいか。いや、心地いい、かな。…あ、やっぱ気持ちいいの方が近い。気持ち悪い?俺?おう。

 でも本当にそう思うんだよ。顔のパーツの配置が気持ちいい。


 よく、人の内面は外見に表れるって言うけど、お前の場合はあんまりそういう感じしないな。単純に顔がいいよ。顔だけがいい。顔だけが独立していい。まあ顔以外が悪いってわけじゃないけど、取り立ててけなすところもなければ褒めるところもないかな。でも逆にそのクセの無さが、顔を引き立てるのに一役買ってるよ。

 性格で言うとさ、たとえば普段は穏やかなのに何らかのスイッチで激昂しちゃう人って、ああバランス取れてないなあって思うじゃん。すごく不安になるでしょ?逆にバランス取れてる人は安心感があるじゃない。

 お前はそれの顔版。俺にとってバランスのいい顔。もしお前が犯罪に手を染めたりしても、俺はあんまり気にしないんじゃないかな。顔はいいから。



 この感覚ない?

 家族とかに近いのかな。でも俺とお前って全然似てないしな。かと言ってその顔になりたいってわけでもないの。他人だからこその良さ。他人で、かつ近くにいることがいいんだよ。

 でも、たとえば俺たちが恋人同士だったとしたら――異性か同性か関係なしにね――うん、やっぱりこういう感覚にはならないと思う。だってそれだと意味がついてきちゃうもん。友達ぐらいの距離感だから一番いいんだよ。だから家族とも違うわけだ。


 そう、だからお前の顔が突然それじゃなくなったら、俺は一緒にいたいと思えなくなる気がする。もしそうなったら、すごく残念だよ。老いる分にはいいよ。その顔がどういう老け方をしていくのかはぜひ見てみたいしね。 よし、じゃメシ行くか。行こうよ。ねえ。ねえ。

本とか

主に読書感想文、たまに思ったこと。

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